研究内容

 本学では、2008年度からNEDOのHi-PerFCプロジェクト(~2014年度)、2015年度からNEDOのSPer-FCプロジェクト(~2019年度)、2020年度からNEDOのECCEEDプロジェクト(~2024年度)を受託し、燃料電池の高出力化、高耐久化、高効率化に資する触媒や電解質材料およびそれらの性能を極限まで発揮させる触媒層の研究に取り組み、世界でも注目される多くの成果を挙げてまいりました。
 2025年より、「次世代燃料電池・水電解の要素技術開発」として、新たに7つの事業(ADVANCEDプロジェクト)を受託しました。
 今回採択された7つの事業では、これまでの成果を活かしながら、自動実験等の新たな発想を取り入れることにより、NEDO戦略ロードマップ等で定められる高性能・高耐久・低コストを実現するための技術を開発します。

ADVANCEDプロジェクト 2025年度~

NEDO水素利用拡大に向けた共通基盤強化のための研究開発事業/次世代燃料電池・水電解の要素技術開発

1)ADVANCED_カソード「高効率・高出力・高耐久を兼ね備えたPEFC用セラミックス系カソード触媒(層)の研究開発」

NEDO 技術開発ロードマップを実現するためには、燃料電池の高性能化、高耐久化、低コスト化を実現するする新しい触媒を実現する必要があります。
 本学がこれまで、高出力・高耐久・高効率なセラミックス材料を担体とする触媒の研究開発を行ってきました。これまでの研究成果をもとに、更に高性能化と高耐久化を図りながら、低コスト化に挑戦するものです。
 そのため、導電性を持ち耐久性に優れるセラミックス材料を更に進化させると共に、形状を多孔性とした新規のセラミックナノ粒子を開発しています。次に、このセラミックス粒子を担体として、高活性なPt 系ナノ粒子を担持した触媒材料を開発しています。更に、この新規触媒を用い高性能な触媒層を実現するために、触媒とアイオノマーの界面が重要な役割を明らかにすべく、ナノスケールでの物質移動を、分子動力学シミュレーションを用いて解析しています。これらの結果をもとに界面構造・修飾効果・界面プロトンダイナミクスなどの新たな技術を導入し、高性能で高耐久性のカソード用のセラミックス系電極触媒を開発に取り組んでいます。

2)ADVANCED_自動実験「自動実験を用いた燃料電池用次世代触媒・触媒層の研究開発」

 先端分野の技術力は国の産業競争力の基盤であり、競争力を維持・向上させてゆくために、研究開発のDXが期待されています。
 燃料電池・水素技術開発は物理的な実体を対象とした技術の開発であるため、研究開発の中で実施される実験の自動化はDXとして欠くことができない重要な要素であり、このための拠点として山梨大学を整備する採択がなさました。
 これまでの研究開発の速度を大幅に向上させるため、触媒等の材料の合成・利用の最適化及び触媒層の最適構造の検討を加速的に進め、発電性能までを一気通貫に評価する自動実験装置を構築しています。
  また、他の研究グループの利用も可能とし、得られたデータも公開するなどし、新材料開発の拠点となるものです。これらを通して、2035年以降に目指すべき目標性能を達成するための触媒・触媒層の性能向上を達成させ、産業界の持つ共通課題を解決する高効率・高出力・高耐久を両立した新たな触媒・触媒層材料を産業界と共に実用化に取り組んでいます。

3)ADVANCED_電解質「広温湿度域にて作動可能な高プロトン伝導性電解質膜の研究開発」

 NEDO技術開発ロードマップを実現するためには、低温から高温、低湿から高質でも、高いプロトン伝導性、高い機械的強度、更に長期間の耐久性が必要です。
 本学ではこれまでに、高分子電解質に様々な材料を複合化したコンポジット膜の作成に成功しています。これまでの知見をもとに、2035年以降の高性能化、高耐久化、低コスト化目標の実現に資する新規な電解質膜の研究開発を実施するものです。
 具体的には、ナノファイバー材料や連珠構造を有する無機ナノ粒子を、炭化水素系及びフッ素系電解質材料に添加することにより、電解質材料内部の構造変化を発生させ、高いプロトン伝導性を有する部分を生み出してゆきます。このために、水の挙動に関する分子動力学シミュレーションも活用し、材料設計を行っています。ここれらを通して、2035年以降に目指すべき目標性能を達成する電解質膜の開発に取り組んでいます。

4)ADVANCED_ポーラスリブGDL「次世代燃料電池のポーラスリブGDL/MPLに関する要素技術の研究開発」

 燃料電池性能で発電を行うためには、反応物質である酸素や水素は反応場である触媒層にはガス拡散層(GDL/MPL)を通じて届けられます。目標となる燃料電池性能を実現するには、GDL/MPLの物質輸送性能の向上が不可欠です。
 先行研究においてGDLに流路を形成しリブ下に強制伏流ガスを発生させ触媒利用率を飛躍的に向上するセル構造を提案してきました。また、高温焼結法にはよらず製造自体は簡易・安価に実施できることも見出してきました。
 本提案ではこれまで提案してきたポーラスリブGDL/MPLについて2035年目標を達成する高性能化に取り組むものです。その実現のために、各種セル性能、中性子線やX線イメージング、気液二相流動の時空間変動、反応輸送モデル等の解析技術でGDL内部の酸素や水の動的変化を多角的に解析し、導電性・ガス拡散性、水マネジメント機能の性能発現/劣化メカニズムを解明しています。これらにより、HDV目標の実現に資する要素技術を確立に取り組んでいます。

5)ADVANCED_ES「次世代燃料電池の革新的な生産技術に資する静電スプレー法に関する要素技術の研究開発」

 各材料の理想的な触媒層構造を実現し、高い性能を引き出すには触媒層生産プロセスが重要です。
 貴金属である白金(Pt)触媒の有効性を向上させる精密塗工と、従来の生産プロセスにある乾燥工程をなくす業界初のマルチノズル式静電スプレー(ES)法を開発しています。ES法により理想的触媒層構築を実現し、将来の大量生産を可能とする革新的プロセスへ進化させるための要素技術を構築するものです。そのため、PEFC用触媒層の理想構造実現とES安定塗工メカニズム解明を目指し、高次構造、傾斜構造形成技術構築、新触媒/アイオノマー材料対応、マルチノズルデバイス塗工、触媒層成型・アイオノマー結晶化等の各要素技術のメカニズムを、計算科学と実験解析を駆使し解明にも取り組んでいます。

6)ADVANCED_PEMWE「高性能・高耐久・低コストを実現するプロトン交換膜型水電解装置用革新的低貴金属担持アノード触媒・MEA の研究開発」

 カーボンニュートラル社会の実現に向けて再生可能エネルギーの活用によるグリーンな水素製造が重要となっています。プロトン交換膜水電解(PEM WE)は、電源の変動に対する応答性や高い水電解効率などにより、今後、普及が期待されています。しかし、Ir(イリジウム)等の貴金属を使用することから、資源量やコストの観点から、貴金属の少量化を行いつつも、高い性能と長期間の耐久性の発揮が、求められています。
 そのため、弊学がこれまで開発を行ってきた「連珠構造を有する導電性セラミックス担体にIrナノ粒子を担持した触媒」をベースに、さらに界面構造や微細構造にいたる異なるスケールでの触媒開発に取り組んでいます。
 これらを通して、2040年以降に実現すべき技術水準を達成するための少量の貴金属で、高性能・高耐久・低コストの水電解装置を実現する触媒・MEAを産業界と共に実用化に取り組んでいます。

7)ADVANCED_AEMWE「アニオン膜型水電解セルの高性能化・高耐久化とスタック技術の開発」

 2030年に18円/Nm3の水素製造コスト達成に貢献することを目的とし、本研究開発では、アニオン膜型水電解装置セルの要素技術開発に取り組んでいます。アニオン膜型水電解セルのために新たにPFAS対応のアニオン膜・イオノマー、非/低貴金属触媒を設計するとともに量産化技術の開発も行っています。また、これら材料からなる膜電極接合体を作製し、アニオン膜型水電解セルの高性能化と高耐久化を両立させるとともに、スタック化の開発も行うことにより、我が国の水素社会実現に貢献する基幹技術の創出を目指しています。各課題は独立して実施するのではなく、アニオン膜、イオノマー、非/低貴金属系触媒、それを組み合わせた膜電極接合体作製、セルの運転条件検討と耐久試験、スタック課題の抽出、に関する課題を他の研究機関全員で共有しながら進めるアジャイル方式で進めており、5年間の研究開発期間で最大限の成果を挙げ、高い目標を十分に達成できる共同体制を構築しています。

ECCEED’30-FCプロジェクト 2020年度~2024年度

NEDO燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
「高効率・高出力・高耐久PEFCを実現する革新的材料の研究開発事業」

ECCEED’40-FCプロジェクト 2020年度~2024年度

NEDO燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
「広温湿度作動PEFCを実現する先端的材料コンセプトの創出」

SPer-FCプロジェクト 2015年度~2019年度

NEDO固体高分子形燃料電池実用化技術開発事業
「セル・スタックに関わる材料コンセプトの創出/高出力・高耐久・高性能燃料電池材料のコンセプト創出」

Hi-PerFCプロジェクト 2008年度~2014年度

NEDO固体高分子形燃料電池実用化技術開発事業
「劣化機構とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料開発」